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地球温暖化最前線!小笠原エコツアー報告書

概要

事業種別

第 5条第 1号第 5項 「野生生物及び生態系に関連した旅行等余暇活動に関する研究及びその成果を提供する事業」

名称

NaGISA Project in Ogasawara 2008
〜 洞爺湖サミットに向け、地球温暖化と海洋生物に関するオープンな調査研究とセミナーを 〜

目的

小笠原諸島父島の沿岸域に生息する海洋生物 (注1) に関する多様性の実態を解明するための調査研究を全公開および一般募集型で実施するとともに、温暖化ガスによる海洋環境の変化 (注2) に伴う海洋生物への影響に関するセミナーを開催することで、地球温暖化のもう一つの真相に迫るとともにその理解の広く一般への普及を目指す。

(注1) 海洋生物
メイオベントス (32μm 以上 1mm 未満の底生生物)、マクロベントス (1mm 以上 4mm 未満の底生生物)、メガベントス (4mm 以上の底生生物)、プランクトン、海草、海藻など

(注2) 温暖化と海洋環境の変化
温暖化の原因のひとつとされる大気中の二酸化炭素 (CO2) の濃度の増加は、海水へ溶解する二酸化炭素量を増大させ、過飽和状態にあるCaイオンと結合し、海水中の水素イオン濃度が増加し、現在の弱アルカリ性 (ph7.7) から酸性化することになる。メイオベントスは炭酸カルシウム (CaCO3) からなる殻を持つものが多いため、海水の酸性化により炭酸カルシウムの殻が溶解、若しくは形成できなくなることが研究されている。

実施日

2008 (平成 20) 年 6月 19日 (木) 〜 24日 (火)

実施者

  • 主催: 特定非営利活動法人エコロジー・カフェ、京都大学フィールド科学教育研究センター
  • 協 力: 株式会社ナショナルランド、株式会社クレディセゾン
  • 後 援 (セミナーのみ): 関東地方環境事務所 、小笠原返還 40周年記念実行委員会

参加者

15名 (会員 6名、京都大学フィールド科学教育研究センターから 2名、一般 2名、現地 5名)

行程表

6月 19 日 (木)

時刻 概要
10:00 竹芝桟橋出港
15:00
〜16:00
船内レクチャー
テーマ: 海にかかわる地球環境問題
講演者: 京都大学フィールド科学教育研究センター長 白山義久教授
約 50名の乗船者がレクチャーに参加
18:30〜 八丈島へ寄航、年に 1度の八丈島経由の便

6月 20日 (金)

時刻 概要
9:45
〜10:15
船内エンジンルーム、操舵室を見学
11:50 父島二見港入港
(出航から終始凪であったため 50分遅れの入港)
14:00
〜17:30
調査のための現地の下見
下記 4地点の砂浜で下見を行ったが、海草は発見されず
・扇浦、小港海岸、宮の浜、境浦
そのため、今回は岩礁海藻帯における調査のみを行う
19:00
〜20:30
父島ビジターセンターにて
NaGISA Project in Ogasawara 2008 海洋生態セミナー
・テーマ: 温暖化ガスによる海洋生物への影響 〜私たちの生活を考える〜
・講演者: 京都大学フィールド科学教育研究センター長 白山義久教授

6月 21日 (土)

時刻 概要
8:45
〜11:00
南島の沈水カルスト地形・植生観察ツアー
13:30
〜16:00
中山峠で植物観察、そのままブタ海岸まで

6月 22日 (日)

時刻 概要
9:00
〜12:45
フィールド海洋生物調査 (岩礁)
州崎の岩礁でサンプリング
・終了後に、調査報告会 (顕微鏡による観察とレクチャー)
15:30
〜17:30
宿に戻り、サンプルの分類作業
19:45
〜21:30
反省会・打ち上げ (於: Bonina)
22:00
〜23:00
大村海岸で、産卵のため上陸するウミガメを観察

6月 23日 (月)

時刻 概要
8:30
〜11:30
旭山植物観察ツアー by 竹ネイチャーアカデミー (ガイド: 竹澤 博隆)
14:00 二見港出港

6月 24日 (火)

時刻 概要
15:00 竹芝桟橋入港

 

プログラムの概要

船内レクチャー

講師

京都大学フィールド科学教育研究センター長 白山義久教授

テーマ

「海にかかわる地球環境問題」

概要

大気海洋の将来、海水の酸性化、将来の海洋環境の海洋生物への影響と大きく 3つの視点から白山教授にご講演いただいた。

これまでの数十年の間に劇的に二酸化炭素濃度が増加してきたことは、ある程度想像はできていたが、このまま増加し続けたときに、100年ほどで地球上のサンゴが死滅してしまうというデータは驚愕であった。しかも、人類がどれだけ努力してもその濃度に達してしまうということは非常に恐ろしい状況である。電力会社による二酸化炭素の隔離計画も、早急に現実のものとしなくてはいけないのではないだろうか。二酸化炭素の増加によってサンゴを初め、さまざまな海洋生物に計り知れないほど大きな影響を与えることが分かったが、それは人類にとっての影響も甚大なものになるであろうことが推測される。人類全体として、さらなる意識をもち、社会、個人としてはできることから確実に行っていかなければならないと強く感じさせられた。

船内セミナーということで、乗客も 50名程度集まり、参加者は興味深く聴講していた。これから向かう小笠原の美しい海とサンゴを思うと、海洋環境への危機感と地球への思いやりの大切さを感じざるを得ない。

おが丸船内レクチャーの様子
おが丸船内レクチャーの様子
皆さん真剣に聞き入っています!
皆さん真剣に聞き入っています!

船内レクチャー (詳細版)

  1. 日時: 2008 (平成 20) 年 6月 19日(木) 15:00 〜 16:00
  2. 場所: おがさわら丸船内食堂
  3. テーマ: 海にかかわる地球環境問題
  4. 講師: 白山義久(京都大学フィールド科学教育研究センター所長・教授)
  5. 内 容: (以下)

大気中の二酸化炭素はこれまでも、高くなったり低くなったりを繰り返して少しずつ上昇してきている。低いのは北半球が夏のときであり、これは植物の光合成が活発になることによる。逆に高いのは北半球の冬の時で、これは植物の呼吸と人間の暖房用の化石燃料の使用が原因となっている。

1970年ころは 280ppm であったが、現在は 360ppm まで上昇している。どんなに人類が努力しても二酸化炭素濃度は 2100年までに 550ppm まで上昇するといわれているが、このまま、どんどん使い続けると 2100年までに 1000ppm となって、今の 3倍、産業革命時代の 4倍の濃度になる。以上はノーベル平和賞を受賞している IPCC グループの予想である (白山教授もグループのメンバー)。化石燃料をすべて燃やすと一時的には 3000ppm を超えることになり、全ての場所の濃度が 2000ppm になる。重要なのは 2100年で終わりではなく、それ以降も濃度は上昇し続けるということである。

二酸化炭素濃度の変化は、この 1000年ぐらいほとんど変わっていなかったのだがこの 50年で急激に上昇している。さらに、ここ 2500万年間ほどは、300ppm を超えるような濃度になることはほとんどなかったことから、今は過去一度も経験したことがなかった濃度に突入しているといえる。氷期と間氷期の移行時期による濃度変化は 1年に 100分の 1ppm 程度の変化率であったが現在は年に数 ppm の二酸化炭素濃度の変化と昔の 100倍の変化率である。二酸化炭素の発生は、90% は化石燃料の使用による発生、10%は森林の破壊によるもの、火山からはコンマ数%程度であるため 99.9% は人間のせいで発生している。

温室効果ガスの役割は、太陽の光はそのまま通すが地表からの赤外線はとどめること。この効果は重要であり、効果が少なすぎると、月と一緒でマイナス 50度の世界になるがそれをマイルドな環境にしてくれているのが温室効果ガスの存在である。現在はその効果が過剰な状態になっているので問題となっている。過去の二酸化炭素の濃度の測定方法は、南極の氷を調査することで知ることができる。雪が固まって氷になるときに空気を閉じ込めるため、その中に含まれる二酸化炭素濃度を測定する。

もうすでに温暖化は始まっており、前世紀から平均気温が 1度は上昇している。驚くべきことは比熱が高い海の平均温度も 0.5度上がっていることである。2100年までに 4 〜 5度平均気温が上昇、2100年以降もとんでもない環境になってしまうと推定されている。シミュレーションでは日本は比較的よくて 2.5度上昇だが、北極は 7度上昇する予想であり、氷が解けて白熊がすめなくなるかもしれない。

二酸化炭素の排出に関しては、現在、人類は毎年 6.3ギガトンの二酸化炭素を排出しているが、海があるおかげでその排出量の 3分の 2 は吸収してくれている。それに伴い、海の二酸化炭素濃度も比例的に上昇している。海は pH7 (中性) より数値が大きくアルカリ性なのだが、これまで 8.1 ぐらいだったが現在は 8.05 ぐらいまで減少している。2100年に 550ppm まで上昇したときは 7.9 〜 7.7 とさらに中性に近づく。さらに将来はもっと下り続け、2500年はほぼ中性になると予想されている。

地球の温度上昇により、海水温の上昇と水面の上昇、海水の酸性化が懸念されているが最も心配されているのはサンゴである。サンゴの中で光合成をして栄養を作ってくれている褐虫藻は、水温が 29度を超えるとサンゴから離れてしまい、その結果栄養が得られなくなったサンゴは白化して死んでしまう。サンゴの殻は炭酸カルシウムでできている。海水に溶けている炭酸イオンからカルシウムから作られるが、二酸化炭素濃度が上昇するとどんどん炭酸カルシウムが溶けやすくなる。現在は溶けることができる量の 5倍程の炭酸カルシウムが海水に存在するため殻をつくるのが容易であるが、二酸化炭素濃度が高くなり pH が小さくなると、殻が溶けやすくなり形成が困難になる。2050年には 450ppm の二酸化炭素濃度となり小笠原のサンゴの生存は難しくなり、沖縄では壊滅してしまう。人類がどんなにがんばっても 2100年には到達すると言われる 550ppm になると、なんとかサンゴは南太平洋の一部とブラジル沖、カリブ海のほんの一部で生存するのみとなってしまう。

もちろん、サンゴ以外の炭酸カルシウムで形成されている生物にも影響がでている。円石藻が殻をつくれなくなってしまい、翼足類 (クリオネ等) も殻が溶けはじめる。560ppm になると貝やナガウニ、ムラサキウニの殻がボロボロになってしまう。生存率の減少、異常固体の増加など様々な影響を及ぼす。カキやエビもうまく育たず、子孫ができず絶滅へ向かうことになる。

水面上昇も重要な問題であり、近年既に 15センチ程水面は上昇している。氷河が溶けているからという理由と、温度上による海水の膨張の複合的な原因による。2100年に、現在の海面が 1m 上昇すると砂浜のある海岸は 4 〜 5県に存在するのみとなってしまう。また、日本の排他的経済水域の 10% を構成する源となっている沖ノ鳥島も水没してしまう。人類も海面上昇に手をこまねいているわけではなく、国の研究機関をはじめ様々な施策とシミュレーションを行っている。しかしながら、最近、海への鉄の散布という悪い方法も蔓延している。鉄のある海に植物がいるというデータから、鉄の散布により植物が増えて、二酸化炭素が減るとの考えからだ。この考えは、間違いではないかと考えられている。現在植物の少ない南極で鉄の散布を行った場合、確かに植物が増えるかもしれないが、赤道付近へ循環している海水への栄養が減ることで地球全体を考えると植物は増えないと考えられている。鉄をまくエネルギーだけ無駄と考えられるが、未だにうまくいくと思っている連中がいるようである。

ならば、今の電気代を 3割増額したら、二酸化炭素をまったく発生させない発電所をつくることが可能。発電で発生した二酸化炭素を回収して深海の深いところへ隔離、地中ふかいところへ貯留、石炭内へ固定するなどして大気から隔離するという方法である。実際に少しずつではあるが、このような動きが始まっている。海洋汚染防止法が改正されて、希望者は行って良いことになっている。もともと海が吸収して深海へ運んでいるのでちょっと力を貸してあげるというイメージである。深海へ 80ギガトンは隔離できると推定されており、年間の発電による排出量は 2 〜 3ギガトンであるため、今後 100年は隔離が可能。あとは電気代があがっても良いかの問題である。海に隔離するのは安価、地中は高価であることが分かっている。欧州は水中、日本は地中を嫌う傾向があるが、どちらもそんな危険なことではないと考えている。

これまで述べてきたような改善策はあるものの、やはり第一には省エネルギーをした方が良いであろう。地球環境をまもるという人類の意識、社会の変化が重要との結論になる。

記録責任者: 虻川伸也

調査のための砂浜海草帯の下見


小笠原父島の地図 (詳しい地図で見る)

NaGISA Project の調査は岩礁海藻帯および砂浜海草帯にて行う。そのうち、砂浜海草帯でのサンプリングに適した場所を探すため、白山教授の先導のもと、小笠原の父島において、扇浦、小港海岸、宮之浜、境浦の合計 4地点の砂浜でシュノーケリングによる下見を行った。結果としては、いずれの地点からも海草を観察することはできなかったことから、今回の小笠原での NaGISA Project の調査は岩礁海藻帯のみで行うこととした。


扇浦海岸
扇浦海岸
小港海岸
小港海岸
宮之浜
宮之浜
境浦
境浦

コメント

小笠原で海草が発見できなかったというのは仄聞していたが一つの発見であった。やはり、調査実施には過去に得られた情報のみではなく、実際に現地で調査を行うということが如何に重要かということに気づかされた。存在することを証明するのは容易であるが、存在しないということを証明するのは非常に困難であるように、今回の4地点での下見調査で存在しないことを断定できる訳ではないため、今後継続的な調査を行うことで海草の存在の有無を明らかにしていきたい。

NaGISA Project in Ogasawara 2008 海洋生態セミナー

講師

京都大学フィールド科学教育研究センター長 白山義久教授

テーマ

温暖化ガスによる海洋生物への影響 〜私たちの生活を考える〜

概 要

Census of marine life (直訳すると海洋生物の国勢調査) は、世界中の国々の研究者が協力し、国際的ネットワークによって、過去、現在、未来の世界の海洋生物の多様性、分布、個体数などについて調査、解明を目指し10年計画で進めているプロジェクトである。例えば、ニュージーランドのアシカの頭数の推移等がこれまで調査されている。

NaGISA ProjectはThe Project of Census of marine life (CoML) の一部を担うプロジェクトであり、その名は海辺を意味する日本語の「渚」から名づけられた。NaGISA (Natural Geography in Shore Areas) は海の現在を知ることを目的としたプロジェクトの一つであり、海の最も浅い場所をその対象エリアとして、世界の沿岸生物の多様性を調査し、モニターしている。現在 55 の国がこのプロジェクトに参加している。天気予報のように、ルーティンワークとして調査し続けることが重要であり、また生物多様性に関心を持つ世界の人々が協力する活動を通して、人のつながりが広がることも目的としている。調査によって、温暖化分布のデータ取得、外来種進入の監視のを行っている他に、人のつながりというところでは発展途上国の進展へも寄与している。単純で費用のかからない統一した調査法によって、世界各国の研究者や団体の参加を促すことで、多くのデータを継続的に収集解析している。

セミナー後半は、参加いただいた小笠原島民の方向けに、船内でのセミナー内容を再度噛み砕いて講義いただいた。

講師は白山教授
講師は白山教授
セミナーには島民の方も参加
セミナーには島民の方も参加

コメント

研究者ではないエコロジー・カフェの会員達が、実際に調査を行う前に、そのプロジェクトの意義を知ることで、調査に対する目的意識を明確にすることができた。また、セミナーには島民の方にも参加いただいて質問などを積極的にいただいた。しかしながら、非常に良いセミナーではありながらも、島民の参加人数が少数であったため、もっとたくさんの方に参加いただけるように事前告知を行うなど、集客活動の方法を再度考慮する必要があると感じた。

南島の沈水カルスト地形観察ツアー

砂浜海草帯での調査が無くなったため、南島の沈水カルスト地形観察ツアーに出発。途中、ジョンビーチの海上でしばし停泊。石灰岩地帯のため、まばゆい純白の砂浜が観察できた。ジョンビーチから南島までの道のりは、石灰岩の岩礁を縫う様にボートで進んでいった。晴れ渡る空をカツオドリが優雅に滑空しているのも見えた。

非常に狭い湾の入り口を、左右に迫る石灰岩に衝突するのではないかと冷や汗をかきながら通過して、南島上陸ポイントの鮫池に到着。残念ながら、実際に鮫を見ることはできなかったが数日前には群れを成して泳いでいたとのことであった。湾を形成する岸壁の壁面には鍾乳洞も見ることができた。明らかに石灰岩で形成されていることが目に見えて分かる。南島上陸前に、外来種の進入を防ぐために、サンダルの裏面に付着している父島の土を落とす。

カツオドリの滑空姿
カツオドリの滑空姿
岸壁に見える鍾乳洞
岸壁に見える鍾乳洞
植生が戻った鮫池周辺
植生が戻った鮫池周辺

上陸時は、険しい岸壁にボートのエンジンをかけたまま前進して押し付けることで安定させて上陸、すぐさまロッククライミングのように手を使いながら岸壁を登る。

南島は石灰質の土地が隆起・沈降してできた世界的にも珍しい沈水カルスト地形の美しい島である。上陸の際は東京都認定ガイドの同行が必要であり、歩く場所も制限されている。これまで自由に歩いていた観光客に対して制限したところ、赤土部分の植生がおよそ 4、5年でほとんど回復してきている。細い小道を歩いていくと、砂浜が見えてくる。砂浜には、ウミガメの産卵跡を示す 3本の木や、上陸、移動の痕跡を見ることができた。そして外海とトンネル状につながる扇池、扇の形に開いたコバルトブルーの海と白い砂浜が眼前に広がった。扇池は人気の観光スポットとなっており、多くの観光客がいた。ツアーの時間が限られていたため、わずかな間ではあったがシュノーケリングを行い、別世界のような扇池の雰囲気を存分に肌で感じることができた。

別世界のような扇池
別世界のような扇池
ウミガメ産卵場所のサイン
ウミガメ産卵場所のサイン
扇池で記念に一枚
扇池で記念に一枚

コメント

南島上陸の際に、靴底の土を洗い流す行為をすべての船が行っていたのには、その徹底振りに感心した。また、観光客の歩く場所も歩道のみと制限することで、数年の前の写真と比べると見違えるほどに植生が回復していることにも驚いた。扇池は非常に美しい景観であったが、観光客の多さに驚いた。観光客の増加が景観の破壊につながらないようにガイド同行の徹底と、行き過ぎない観光ポリシーを是非とも続けていただきたい。

中山峠で植物観察

小港から八ツ瀬川を渡って、ヤギ等の侵入を防ぐ柵を越え、遊歩道をたどると中山峠へ出る。ガイドなし、エコカフェのメンバーのみで、中山峠までの約600mの山道をトレッキングしながら様々な植物を観察した。峠に入る前の八ツ瀬川の水際にはオオハマボウの群落が観察された。

テリハハマボウの花
テリハハマボウの花
中山峠まで山道を580m
中山峠まで山道を580m

遊歩道を歩くと、ユウセツラン(リュウゼツラン)、モクマオウ、オオサンカクイ、タコノキ、ムニンヒメツバキ等を観察しながら峠まで。峠付近はごつごつした岩肌が見えており、岩石にはメノウが含まれているのが観察された。

ハシナガウグイスを探す探検隊
ハシナガウグイスを探す探検隊
斜面に咲くムニンヒメツバキ
斜面に咲くムニンヒメツバキ
岩石中のメノウ
岩石中のメノウ

峠からはジョンビーチとその対岸にある南島まで眺めることができた。そのまま下ること 660m、グンバイヒルガオに敷き詰められた弓なりの海岸、ブタ海岸までトレッキングを楽しんだ。海岸付近の草むらの中にはノヤギが数等いるのも観察された。また、ブタ海岸付近の路頭では、褶曲構造や断層が顕著に見られ、隆起・沈降活動の歴史を感じることができた。

峠から望む小港海岸
峠から望む小港海岸
ブタ海岸のグンバイヒルガオ
ブタ海岸のグンバイヒルガオ
ブタ海岸の褶曲構造
ブタ海岸の褶曲構造

コメント

外来種のモクマオウの落葉が一面に厚く体積しているのが観察された。モクマオウはアレロパシー物質が強く下草を枯れ死させてしまう。島の固有種の絶滅などが叫ばれているが、島中の道路脇にも堆積しているモクマオウを見ると、改めて早急な対応が必須であると強く感じさせられた。

また、中山峠の入り口にもノヤギなどの侵入を防ぐ柵があったように、ブタ海岸の草むらにいたノヤギについて小笠原は非常に困惑している。特にノヤギは中山峠の植生を破壊した犯人であるとのこと。個人的に食用として捕まえる人もいるようだが、基本的に何ひとつ良いことはないようだ。兄島では大きく村の予算を割いてノヤギの完全な駆除に成功したようだが、現存している父島に関しては引き続き植生への影響が心配される。

フィールド海洋生物調査 (岩礁)

NaGISA プロジェクトの一環として、京都大学フィールド科学教育研究センター長 白山義久教授指導の下、実際にフィールドで海洋生物調査を行った。以下に、本プロジェクトの一般的な調査の手順・方法を示すが、7-2で既に述べたように、今回の下見調査の結果、小笠原では砂浜海草帯を確認できなかったため、岩礁海藻帯の調査のみを行った。

調査の手順・方法

[岩礁海藻帯の調査〕
潮間帯より下記 6つの深度にてコドラートを設置し、調査を行う。

高潮帯、中潮帯、低潮帯、水深 1m、水深 5m、水深 10mにコドラートをセットする (水深は低潮位から測定)。初めの3地点を陸上班、後の3地点を水中班として、作業を行った。

サンプリング

手順・方法 (陸上班)

今回は合計 16名が陸上班と水中班に分かれ、1チーム各 4人の、陸上班 2チーム、水中班 2チームで調査を行った。前述の 6地点でそれぞれ下記に示す (1) 〜 (5) までの一連のサンプリング作業を行った。

(1) サンプル回収袋に、a) コドラートの大きさ (1m2、50cm2、25cm2)、b) チーム名 (A, B, C, D班)、c) 調査地点の深度 (上、中、下) を記載することで、サンプルの混同を防ぐ。

(2) サンプリング直前に (1) を記載した回収袋の写真を撮ることで、以下のサンプリング場所の写真の混同を防ぐ。

(3) 1m2 のコドラート:全体で 1枚と、50cm2 ずつ 4枚の写真撮影を行う。さらに、代表的な証拠 (バウチャー) をサンプリング。

(4) 50cm2 のコドラート:全体で 1枚写真を撮る。海藻のみ全て、スクレイパーの先端を使用してサンプリング。

(5) 25cm2 のコドラート:全体で 1枚写真を撮る。範囲内全ての動植物をスクレイパーできれいに剥し採るようにサンプリング。

注意事項:サンプル回収袋は折らないこと (穴が開くため)、

上記の手順・方法によるサンプリング作業を今回は父島の州崎の岩礁で行った。調査地点まではボートで向かったが、上陸地点付近は深度が浅く海底が珊瑚や岩が多いため船を岸に寄せることはできず、上陸まで 10数メートルは荷物をバケツリレー方式で運びようやく上陸することができた。手順 (1) 〜 (3) までは難なく進むが、実際のサンプリング作業である (4)、(5) に入ると全員黙々と作業に没頭した。一人がサンプルの袋を構えて、一人がコドラートの枠を押さえ、二人がひたすらサンプリングという、息のあった作業がポイントとなった。「上」のサンプリング場所では、大量のフジツボをスクレイパーで剥ぎ取るのに一苦労した。また、「中」の場所では、ほぼ岩と一体になっているほど硬いオハグロガキのサンプルに苦戦した。スクレイパーでは全く歯が立たず、2つほど破損してしまった。代わりに岩石 2つをくさびとハンマーのように使うことで、オハグロガキを引き剥がすことに成功した。「下」は、潮が引いた後に残る海水溜りの場所で行った。まずは、その海水を空きボトルなどで全て追い出してから、同様の手順でサンプリングを行った。以上、作業時間にして約 2時間 30分にて、2チームが上、中、下の 3地点でのサンプリングを終えた。

息の合ったサンプリング
息の合ったサンプリング
範囲内は完璧にサンプリング
範囲内は完璧にサンプリング
ミツカドパイプウニ
ミツカドパイプウニ

サンプリングのコドラート内にはいなかったが、ミツカドパイプウニやナガウニ、ヒレジャコガイ、オンティポーラも見ることができた。

コメント

サンプリング作業としては難しい作業は一切なく、説明を受けたものであれば万人が同じ作業ができる普遍性の高い作業であった。ただし、初めての調査であったためか、サンプリングしようとしている場所が、適した場所かどうかを見極めるためには研究者や経験者の同行が必要と感じた。

また、サンプリングするときも闇雲に作業を行うのではなく、視認できるものについてはその名前を確認しながら行うことでより作業に面白さがでるのではないか。

場所によっては、一定時間日向に居続けることになるので、特に小笠原のような気温の高い場所においての調査では熱中症などに気をつける必要がある。

分類作業

宿に戻り、サンプルの分類作業を行った。ふるいをかける班と分類を行う班と 2つに分けて作業を行った。

ふるい班

25cm2 のサンプルを 2種類のふるいにかける。

ふるいの網目のサイズにより、マクロベントスとメイヨベントスに分かれる。

ふるった後のサンプルをそれぞれ容器に移す。

分類班

手順・方法

(1) ふるいにかけたサンプルをバットに移す。

(2) バット内で、ピンセットを使い、視認できる範囲で同類ごとに分けていく。

(3) 同類ごとに容器に移し、ホルマリンで固定する。ホルマリンは容器内に充満するため少量で固定できる。

(4) 容器には、サンプリングの住所、コドラートのサイズ、グループ番号、サンプリング地点、日付を記入しておく。

(例: Chichijima Suzaki 1m × 1m-3,high 2008.06.22)

サンプルを回収袋からバットに移した際に、回収袋が風に飛ばされ、危うくサンプリングした場所の情報が分からなくなるところであった。どの資料の分類をやっているのか、厳密に管理しないと得られるデータの信頼性が失われるので注意が必要である。海藻は、見た目では非常に似ているものもあるため、分類時も研究者や経験者の方がいると心強かった。

大神山公園で分類作業を行った
大神山公園で分類作業を行った
迷いながらもピンセットに集中
迷いながらもピンセットに集中

注意事項: サンプルを袋からバットに移した時、それがどのサンプルなのか把握しておくこと。できることならバットにサンプルの情報を記載しておくと安心である。また、ホルマリンは劇薬なので、取り扱いに十分注意する。

コメント

今回は視認できる主に海藻の分類を行うところまでであったが、顕微鏡によって、視認不可能な生物の観察もできると、より調査の実感が沸き、充実感・面白さも倍増するであろうと思われる。NaGISA Project として、最終的なデータとして蓄積されるところまでの一連の流れを改めて確認することで、今回行った調査の意義を感じることができると思う。これに関連して、今回のサンプルは 2008年中に NaGISA Project 本部が置かれている白浜において詳細の分類、同定作業が行われる予定であるため非常に楽しみである。

旭山植物観察ツアー by 竹ネイチャーアカデミー (ガイド: 竹澤 博隆)

植物観察ツアーの対象となる旭山 (標高 267m) に向かう道中、ガイドの竹澤氏は日陰の道路沿いにあるオオハマボウの葉を一枚取り、私たちに特徴を聞いた。裏に毛がある、つやがほとんどない、大きい、等の私たちが列挙した特長を覚えていてほしいとのこと。後に旭山の頂上で見たテリハハマボウの葉は、強い日差しへ適応するため、蒸散を防ぐべく小さくなり、さらに表面をコーティングすることで非常につやが出ていた。

オオハマボウ (大) とテリハハマボウ (小) の葉の表面
オオハマボウ (大) とテリハハマボウ (小) の葉の表面
オオハマボウ (大) とテリハハマボウ (小) の葉の裏面
オオハマボウ (大) とテリハハマボウ (小) の葉の裏面

同じく道中に見られた固有種のタコノキは花が咲いていた。その実はパイナップルのような形をしているが、種子はピーナッツに似ている。昔はオガサワラオオコウモリが食べていたようだが、最近はよりやわらかいマダガスカル産のビョウタコノキを好んで食べているとのこと。タコノキは土壌が硬いと、複数の支柱根を地面に張り、その様子は圧巻である。なお、土壌に届かない支柱根の先端にはキャップが施される (竹澤)。

タコノキの花
タコノキの花
タコノキの支柱根とタコヅル
タコノキの支柱根とタコヅル
タコノキの実
タコノキの実

旭山は、1度丸裸の山になり、戦後にその植生が形成された。その非常に急激な形成のため、非常に偏った植生をしている (竹澤)。

車道から、山道へ分け入ると、目の前に大きなマンゴーの木、ムニンヒメツバキが現れた。特にムニンヒメツバキは森の大部分を占める優先種となっている。山道に入ったばかりの場所は、土壌が深いため背の高い木が多く見られた。また、戦時中の壕もいたるところに見られた。茎の葉痕の部分が「丸に逆さの八の字」の模様になっている固有種のマルハチは非常に面白い。この木性のシダは樹高も 20m ほどまで伸び、日光を浴びるという。同じく固有種のオオトキワイヌビワは枝分かれせずに、1本のまま伸びていく。日光に当たると、オオハマボウと同じように、蒸散を防ぐべく葉が小さくなる。

標高が高くなるにつれて、土壌は 30センチほどの厚さしかなくなる。スコールなどで水がたまって土が滑り落ちる。土がないため植生としては根が張りづらく低木が多くなり、また日差しが直接あたるようになると、蒸散を防ぐように葉が小さくなったり、表面がガラス質でコーティングされてつやがでるといった適応をしている。また、根が深く張れない分、横揺れに対応するように根が板のように大きくなる板根も見られる。

マルハチの葉跡
マルハチの葉跡
固有種のオオトキワイヌビワ
固有種のオオトキワイヌビワ
板のような根、板根
板のような根、板根

島内の家屋の屋根に有料で用いられているオガサワラビロウは、旭山の山中には沢山みることができる。また、その名称が小笠原という場所だから名づけられた、ユニークな名前の植物も多く見られる。ヤロードは、その黄色い見た目から英語で yellow wood と呼ばれていたことからついた名前である。また、ヒメツバキのロースードは rose wood からきている。

屋根に使うオガサワラビロウ
屋根に使うオガサワラビロウ
小笠原ならではの名称
小笠原ならではの名称
戦時中の一升瓶
戦時中の一升瓶

小笠原は海洋島のため、「どんぐりコロコロ」というように重力散布による種 (ドングリ、ブナ、シイ) は一切見られない。そのため、通常大陸性の亜熱帯地域にあるべき種が存在していないとのこと。トリモチを作っていた、ムニンモチノキ、ニッキの味がする真っ赤なお茶として利用されるコヤブニッケイ、グァバ茶のような味わいのキバンジロウの葉、屋久島の屋久杉と良く比較される大きなオガサワラグワ、頂上付近には唯一の針葉樹シマムロ、等など通常であれば 10数分もあれば到着する旭山の頂上までの道のりを、約 1時間 30分かけて、その様々な物の多様性、対応力を堪能することができた。

唯一の針葉樹シマムロ
唯一の針葉樹シマムロ
旭山頂上にて、みんな真剣
旭山頂上にて、みんな真剣
旭山頂上から望める二見港
旭山頂上から望める二見港

コメント

山をひとつ歩いて植物を見ると、その周辺環境の変化とそれに対する植物の生命力、適応力の強さを感じさせられた。

ガイドの竹澤氏には植物観察以外にも、頂上から小笠原を一望できるロケーションの中で、兄島のノヤギ完全駆除の話や、空港建設の論議をしていただいたのだが、小笠原の美しさを非常に強く感じられるあの場所でそのような討論をされると非常に強い説得力を感じた。ただ美しいからという理由だけではなく、固有種の大切さ、外来種の脅威などを実際に目で確認しながら、頂上までたどり着いたときは、ツアー参加前の小笠原に対する意識とは明らかに異なるものになっていた。そのような意識改革を与えていただいた、エコカフェの企画力と竹澤氏のツアーは非常に評価に値すると感じた。

総括コメント

今回の小笠原ツアーは、現地で調査・セミナーを開催することで、地球温暖化の真相に迫ることはもちろん、地元の小笠原の方と共に活動を行うことで共に理解を深めるという目的も達成できたのではないだろうか。そして、今後の小笠原の経過を見守る生き証人としても、私たちは継続的に調査やツアーを実施していきたい。小笠原の自然の素晴らしさ、そしてそこにせまる危機を、後世に伝えていけるような教育用映像資料などの作成にも着手する予定である。エコカフェの会員となり参加したことは社会人としての経験の浅い私にとって今後の人生に大きな影響を与えることとなると確信する。

報告責任者:虻川伸也

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