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小石川植物園における小笠原関係の調査結果

日時・天候

2007 (平成19) 年 6 月 13 日 (水) 晴れ

訪問先

小石川植物園 (正式名称:国立大学法人東京大学大学院理学系研究科附属植物園)
東京都文京区白山 3-7-1

対応者

邑田 仁 東京大学大学院理学系研究科附属植物園教授
平井一則 同技術専門職員 育成部主任

目的

世界遺産登録暫定リストに記載され、登録にむけて小笠原諸島では外来種の駆除及び、指定希少種の増殖の取り組みが積極的に始められている。そこで、後者の取り組みの中核を担当している東京大学小石川植物園を訪問し、その状況を調査・ヒアリングする。

概要

植物園温室及び研究室で保護栽培している小笠原固有種に関し、取組みの現況及び今後の課題等をヒアリングした内容は次のとおりである。

  1. 同温室では、小笠原諸島及び硫黄島列島に自生する固有植物 140 数種のうち 117 種程の個体を系統保存と増殖を目的として保護栽培している。
  2. 現在、世界遺産登録に向けて環境省から東京都を経由して、動植物園において固有種のうち絶滅の危機にある種を 「希少種」 として指定された 8 種指定に、同植物園で独自に 4 種を加え、総計 12 種を実生又は挿木等の方法で増やし、当該基準木の採取場所にその苗木を移植する方法による植生回復を実施している。
  3. 母島中北部で見られるオガサワラシジミはオオシバムラサキの蕾しか食べないと言われており、保護が難しい状況にある。
  4. エコカフェの小笠原における活動にご理解をいただくと共に、今後の活動に関し植物園(邑田先生、平井先生) からの協力、助言をお願いし、快諾をいただいた。

指定希少種 (1)〜(8) および独自に増殖に取り組んでいる種 (9)〜(12) の概説

(1) ムニンツツジ

正式和名 『オガサワラツツジ』 ツツジ科ツツジ属、絶滅危惧 IA 類 (CR) 掲載種

父島の特産種でツツジ山付近に数株自生するのみである。ツツジ科の植物は通気性の良い酸性土壌を好むと言われ、本種の自生種も、やや乾燥した山頂近くの南東斜面にある。小枝の乱取りにより枯死した株もあり、他所へ植えても数年で枯死してしまう。土壌など自生地の環境を変えないよう、全島民の配慮が必要である。

ムニンツツジ (花)
ムニンツツジ (花)
ムニンツツジ
ムニンツツジ

(2) ムニンノボタン

ノボタン科ノボタン属、絶滅危惧 IA 類 (CR) 掲載種

小笠原には 『ムニンノボタン』 と 『ハハジマノボタン』、『イオウジマノボタン』 が自生。1970 年代には、一時父島に一株を残すのみとなってしまったムニンノボタンであったが、その後の植え戻し事業などの成果で、確実に栽培個体数は増加している。また、近年父島で新しく 200 株近くの群落が発見され、そこでは 『ムニンノボタン』 とともに、母島固有とされてきたムニンノボタンの変種 『ハハジマノボタン』 も自生している事が確認されたもの、最近ノヤギの食痕及び角とぎの形跡が認められ危惧される。

ムニンノボタン
ムニンノボタン

(3) タイヨウフウトウカズラ

コショウ科コショウ属、絶滅危惧 IA 類 (CR) 掲載種

母島の石門山だけに見られる小笠原諸島固有種。小笠原が日本に返還された直後は、石門山のカルスト台地の南西部にあるクワの大木の伐根附近に 10 本程度の小群落があり、そのほかには小屋の沢と石門山北面の沢にも小群落が存在していた。しかし、タイヨウフウトウカズラは、野ネズミや外来のアフリカマイマイの大好物のようで、石門山周辺にしかないセキモンノキとともに食害がひどく、絶滅の危機に瀕している。現在このタイヨウフウトウカズラは、桑の木山のコブノキのあった近くに数本が栽植され、アフリカマイマイ避けの金網の柵を設けるなどして保護されている。風媒花であり増えにくい性質がある。

タイヨウフウトウカズラ
タイヨウフウトウカズラ
タイヨウフウトウカズラ (実)
タイヨウフウトウカズラ (実)

(4) ウラジロコムラサキ

クマツヅラ科ムラサキシキブ属、絶滅危惧IA類 (CR) 掲載種
小笠原にはこの他に、同じムラサキシキブ属の固有種として 『オオバシマムラサキ』 『シマムラサキ』 が自生。これらの植物は特にヤギの食害の影響を受けており、野生株は岩場の隙間や茂みの中に残るものだけになってしまっている。植物の個体数減少は、それを食草とする動物にも影響を与え、これらを食草とする固有種のチョウが生息しており、絶滅が懸念されている。虫媒花である。

ウラジロコムラサキ
ウラジロコムラサキ
シマムラサキ
シマムラサキ

(5) コバノトベラ

正式和名 『コバトベラ』 トベラ科トベラ属、絶滅危惧IA類 (CR) 掲載種
小笠原には、父島と兄島に分布する 『コバノトベラ』 母島を中心に分布する 『ハハジマトベラ』 父島と兄島に分布する 『オオミトベラ』 父島、兄島、母島に分布する 『シロトベラ』 と 4 種のトベラ属が自生。これらは小笠原で 4 種に分化、それぞれ異なる生育地環境に適応したものである。このうちのコバノトベラは、極近年の正確な個体数は分からないが、慢性的な 『一斉枯死の様相、ネズミによる結実種子の食害、植戻し株の食害枯死』 に加え、2004 年には前年襲われた台風の影響で 4 個体しか残らなかったと言われるほど希少な木である。完全株と雌株があり、雌株は 2 本しかない。

コバノトベラ
コバノトベラ
シロトベラ
シロトベラ
ハハジマトベラ
ハハジマトベラ
オオミトベラ
オオミトベラ

(6) ホシツルラン

ラン科エビネ属、絶滅危惧IA類 (CR) 掲載種
1983 年に新種として記載された常緑樹林に生育する多年草で、母島の固有種。現在では数株しかなく、最も危機的状況のものの一つである。新種として発表後わずかの期間に、もともと数本しかないホシツルランが根こそぎ採られてしまったこともある。このため、アフリカマイマイの食害から守ることと同時に、盗採からも守らなければならない。白色の花で黄色の花を咲かすアサヒエビネによく似ている。

(7) シマホザキラン

ラン科ヤチラン属、絶滅危惧IA類(CR)掲載種
小笠原諸島の父島にのみ生育するラン科の多年生草本植物である。その生態については十分に把握されていないが、発見時より個体数が限られている上、盗掘、年間降水量の減少等による生育環境の変化、表土流出による根茎の露出等により減少し、現在では個体数が極めて限られている。

(8) アサヒエビネ

ラン科エビネ属、絶滅危惧IA類 (CR) 掲載種
小笠原諸島の父島及び兄島にのみ生育するラン科の多年生草本植物である。その生態については十分に把握されていないが、生育に適した地域が非常に限られている上、盗掘、年間降水量の減少等による生育環境の変化、ノヤギ、アフリカマイマイ等による食害等により減少し、現在では自生は 4 株と個体数が極めて限られている。

アサヒエビネ
アサヒエビネ

(9) ウチダシクロキ

ハイノキ科ハイノキ属、絶滅危惧IA類 (CR) 掲載種
父島の中央山東平から巽湾東海岸の旗立山にかけて、岩石の多い山稜上の低木林にまれに自生する。シマイスノキ―コバノアカテツ (乾燥系) の植物群落内に生息し、大半は 1m 未満で、開花しても結実するものは少ない。ゆえに、劣勢な植物の代表で、コバノトベラとともに最も保存に留意すべき樹種であるため、現在ノヤギの食害を防ぐため、ウチダシクロキの周りには柵が設置されている。しかし、巧妙なノヤギはこの柵を越えてまでこの植物を食べているようだ。元々限られた場所にしか生えない植物が環境の変化によって個体数を減らし、外来生物のノヤギによって選択的に食害を受けるという、二重の圧迫を受けて絶滅に瀕している。

(10) コヘラナレン

正式和名 『アシブトワダン』 キク科アゼトウナ属、絶滅危惧IB類 (EN) 掲載種
父島と兄島にだけ分布。父島でもごく限られた生育地にしかなく、旭山付近や州崎のやや乾燥した疎林地、林緑に自生。ヤギの食害やその年の実生で変動はあるものの父島での個体数は大体 20 〜 40 株程、花を咲かせるものはさらに少なく 2 分の 1 から 3 分の 1。兄島に至っては、コヘラナレンの生育地が崩落してしまったようだ。これらの現状をふまえて考えると、コヘラナレンは1ランク上の IA 類 (CR) が相当なのではないだろうか。コヘラナレンが絶滅に瀕している要因には、コヘラナレンがノヤギの好物であることがあげられる。数少ないコヘラナレンを守るためには、ノヤギがいなくならない以上は有刺鉄線などでできるだけ生育地を囲いノヤギの食害から守るしかないのではないだろうか。

(11) シマカコソウ

シソ科キランソウ属、絶滅危惧 IA 類 (CR) 掲載種
父島と母島の、山地林のやや湿性化した林緑や、明るい疎林地に自生。個体数が少なく、自生地は限られていて、しかもこの自生地のわずか一角にしか生えていないため、戦後は本種の生育を確認した人は少ないようである。緊急に保護の必要な植物のひとつで、ノヤギの食害があるようである。

シマカコソウ
シマカコソウ

(12) ヒメタニワタリ

チャセンシダ科チャセンシダ属、絶滅危惧 IA 類 (CR) 掲載種
小笠原諸島の母島と沖縄の北大東島、中国の海南島の 3 ヶ所だけに隔離分布。母島の石門山のやや陰湿な岩上にあり、個体数は極少なく、絶滅が心配される。それまで小笠原特産の固有属とされてきた極めて貴重な固有種であったが、昭和 47 年 10 月北大東島で同種のものが発見され固有種ではなくなった。現在では中国の海南島でも確認されている。

ヒメタニワタリ
ヒメタニワタリ

用語

参考文献

  • 『小笠原植物図譜 増補改訂版』、豊田武司編著、2003/2/25発行

(個体数などは植物園からの聞き取り時点の状況である)
(文責:エコロジー・カフェ エコツーリズムユニット)

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